シティプロモーションの事例紹介

「わたしたちの月3万円ビジネス」を通じて女性が活躍できる機会を創出し、地域に元気溢れるコミュニティを作り出す取り組み(前半)

埼玉県草加市 自治文化部 産業振興課

埼玉県草加市 自治文化部 産業振興課

 今回のシティプロモーションの事例紹介は、地域の女性のための「わたしたちの月3万円ビジネス」(以下、3ビズ)によって地域の女性の働く場、機会を創出して地域を元気にすることで、市民のシビックプライドの醸成に取り組んでいる草加市様の取り組みを紹介いたします。

 3ビズの卒業生たちが活動の場としている「シェアアトリエつなぐば」で、草加市自治文化部産業振興課の髙橋課長と本澤主事にお話をお伺いしました。

草加市自治文化部産業振興課 髙橋さん(写真右)と本澤さん(写真左)

まずは、草加市が創業支援に特に力を入れている理由をお教え願えますか。

 草加市は都心のベッドタウン特有なのですが、草加市の外で収入を得ている人が多く、また、支出が市外にどんどん流出しているというのが現状です。そのような状況の中で、草加市の創業のポイントは、街中で消費を促していくためのコンテンツを作る人をどのようにして生み出していくのかということだと考えています。いわゆるその小さな地域密着型の商いをどのように起こしていくのかということを考えるのが草加の創業支援全般のテーマです。ですから、草加市の商工会議所と一緒に創業支援事業を立ち上げるときに開業資金300万程度の少額創業というコンセプトで作りました。地域密着型のビジネスを起こして小さく始めて育てていくというやり方をしようということで取り組んでいます。

その中で、地域の女性向けの支援を立ち上げた理由は何でしょうか

 草加市はこれもベッドタウン特有の現象なのですが、家庭の事情で働いていない女性の割合が県内でも多いほうです。結婚を機に、または、お子様が誕生したのを機に草加に引っ越してくるご家庭が多いのですが、お子さんが小さいうちはどうしても女性が家に閉じこもりがちになることが多いと思います。また、子育てが一段落しても、親御さんの介護など、女性への負担が大きくなってしまっているのが現状だと思います。

 しかし、その人たちは、実は、元々かなりのスキルを持っている方が多いはずなのです。高スキルな人が働き手として機能していない状態がベッドタウンとしての草加市にあると考えたわけです。

 ただ、創業塾で扱っているような本格的にフルに働かなければいけない創業スタイルでは、そのような女性たちには創業は無理という話になってしまうわけです。その中で、埼玉県杉戸町で平成26年度に、自分のできることじゃなくて好きなことをみんなで育て合いながら、月3万円の売り上げを稼げるビジネスを生み出していこうという形で3ビズの講座が立ち上がったのです。この形を草加に導入できないか、ということで平成27年に草加市での講座の開講をお願いしました。

「わたしたちの月3万円ビジネス」の案内チラシ

実際に開講してみていかがでしたか

 3ビズは、できることじゃなくて、やりたいことを見つけ出すという方針にしています。やりたいことであれば、どんどんと突き詰めていける、かつ、その時の決まりごととしては、なるべくその地域のリソースを活用してもらうことにしました。つまり、地域資源を発掘しながら、それを活かすことを前提にしています。

 そして、自分の周りの仲間の持っているリソースも活用していきます。例えば、美味しいクッキーを作りたいという思いがあるとすれば、そのクッキーのパッケージだとか、PR用のフライヤーだとか、販売する場所だとか、そういったものについては自分だけでは当然できないので、3ビズのメンバーの皆さんがお互いの得意分野を出し合います。パッケージのデザインが好きな人、チラシを作るのが好きな人、クッキー作るのが好きな人みたいな形でそれぞれの方の好きなリソースを持ち寄る形で、お互いのビジネスを育て合う、というスタイルです。

 その結果、エントリーはもっとたくさんあるのですが選考させてもらって毎年大体12人から15人ぐらいの受講生に入っていただいています。それぞれ1期生からずっと積み上げてくる中で、ちょうど令和3年度までで草加だけでも100人を超えるチームになっています。また、埼玉県内で他に3ビズに取り組んでいる自治体もあるので、そこの受講生も合わせると200人を超えるようなグループになっており、お互いが交流し合うことでいろいろなアクションが生まれてきています。

具体的に3ビズの卒業生によってどのような取り組みが行われているのですか 

 例えば、ここ(シェアアトリエつなぐば)の運営を委託しているつなぐば家守舎株式会社の取締役の松村さんが3ビズの1期生で、子供たちと一緒に働く場を作りたい、ということで、草加市が進めている「そうかリノベーションまちづくり」に参画して、欲しい暮らしは自分たちで作る、というキャッチコピーのもと、ここを子連れで働けるシェアアトリエという形に作り替えています。1階がカフェになっていて、そこでお昼にランチを出す人、スイーツを出す人、がそれぞれ日替わりで担当しています。飲食だけではなく、シェア本棚という形で皆が持っている本を持ち寄って図書館を作ろうとしている人もいます。まさに、自分ができるときに好きなことをする、という考え方がここでは実践できているのです。

 このように、いわゆる「自分の3ビズ」という形でスタートしていって、実際に事業を立ち上げていく人もいますし、ここのようなプラットフォームを活用して自分のできる範囲で無理なくやっている人もいます。一時的には子育てや介護の都合で休むときがあっても、コミュニティの中にいることで、いつでも再開できます。いわゆる諦めないで済む、脱落しないということが実現できています。

シェアアトリエつなぐばの内部

今回の取り組みの成果は何だとお考えですか?

 受講生の中に、自分で稼ぐということを通じて誰のためにお金を使うのかという発想が生まれてきました。結局、自分にとって大事なもののためにお金を使うという、まさにその経済循環の中で言うと、みなさんがお金の使い方を変え始めたのです。つまりショッピングをする時に、同じものを買うのだったらショッピングモールじゃなくて、近所の農家さんの野菜を買うとかですね。

 どうしても創業支援というと、稼げる人を作るということになります。もちろんそういう人もいるのですが、お金を借りて事業を成長させている人じゃなかったら成功じゃないのかっていうとそうではなくて、小商いをすることを通じて市民がお金の使い方を変えていくことによって、地域経済に好循環をもたらしていくということの重要性や必要性を、彼女たちの行動を通じて教えもらったと感じています。

 草加市のように、いわゆる街中でお金が使われないというような経済上の課題は他の市町村でもあります。商業施設を持ってきても結局、大手資本にお金を市外に持っていかれてしまうのです。住民のことを考えると、そういう選択肢も必要ですが、それだけになってしまうことでロードサイドのお店だけ繁盛する町になってしまったということは地方ではよくあることだと思います。

 そういう意味では地元の人たちが地元のリソースを活用しながら、地元のものにどんどん付加価値がついて売れていく状況を作っていく、その時にそこにちゃんとしたファンがついていく、そういう状況を作っていくことが、彼女たちの姿から教えてもらった本当の意味でのファンベースマーケティングだと感じています。それがこの7年間、3ビズをやってきた中で受講生から私たちが教えていただいたことです。