シティプロモーションの事例紹介

愛知県豊田市の地域木材活用の取り組み(前編)地元の木材のブランド化に挑戦!

今回の事例紹介は、愛知県豊田市にお伺いしました。
豊田市と言えば車の産業を中心とした工業地域を想像する方も多いと思いますが、山間地域が全市の7割もあるのです。その地域にある木材の活用方法が現在注目を集めています。
どのようにして地元の木材のブランド化を進めているのか、お話を伺って来ました。

一般社団法人ウッディーラー豊田 代表理事 樋口さん(写真中央)
豊田市役所 産業部 農林振興室 森林課 副課長 深谷さん
豊田市役所 産業部 農林振興室 森林課 保全活用担当 河合さん
一般社団法人ウッディーラー豊田の活動拠点でもある豊田市森林会館にて

失礼ながら取材の時まで豊田市の山林地域がこんなに広いなんて知りませんでした。市役所に森林課があるくらい、豊田市では森林整備に力を入れているんですね。

河合さん 豊田市というとトヨタ自動車を始めとする自動車産業のイメージがありますが、市の面積のおよそ7割が山林なのです。

豊田市の地図(Google Mapより引用)
平地は左下の一部だけで、それ以外はほとんどが山間地域である。

以前から地域の木材の活用は行われていたのですか?

河合さん 豊田市は、平成12年の東海豪雨の際に甚大な土砂災害に見舞われた経験があったことで、森林課が設置され、森林の整備を中心に取り組んできました。併せてさらに森林の整備を進めるために林業振興も行っていますが、時代の流れから、林業は担い手不足の問題を抱えています。“市としては森林を整備できる人がいないと持続的に豊田市の山を守れない!”という課題を持っておりその課題解決の一環として、地域の木材を地域で使えるようにできないかと模索しているタイミングに現在のウッディーラー豊田の代表理事の樋口さんと出会い、樋口さん達と一緒に地域の木材の活用に取り組んだのが、現在のウッディーラー豊田の始まりです。

山村地域の産業振興を市だけで取り組むのではなく、民間団体(一般社団法人ウッディーラー豊田)と連携して取り組むのも珍しいケースだと思います。ウッディーラー豊田とは、どのような団体ですか?

樋口さん ウッディーラー(WOODELER)は、ウッド(WOOD)とディーラー(DEALER)の造語なんですが、木のディーラーなので、木材の総合商社として”使いたい人”と”届けたい人”をつなぐ役割を担っています。もう少しわかりやすく言うと、市役所に行ってどこの課で手続きしたら良いかわからない時に総合案内に行くじゃないですか。そのように、私たちも「豊田の山でなんかしたい!」とか「豊田の木でなんかしたい」という人たちの総合窓口になって、「人と人」や「木と人」、「山と人」を繋げています。

ウッディーラー豊田の概要説明図(コンセプトブックより抜粋)
コンセプトブックはホームページからも見ることができる https://woodealer.jp/

そうですね。確かに、木のことって誰に聞いて良いかわからないですよね。私だったら、知り合いの大工さんに聞くぐらいしか思いつかないです。
総合窓口は大事な役目だと思いますが、窓口の存在が認知されないと、窓口に人は来ないですよね。

深谷さん 木材は地域によって機能が大きく変わるものではないため、元々「豊田の木」がブランド化されているわけではありません。そのため、木が欲しいと思ってもそもそも「豊田市産の木が欲しい」という発想になりませんでした。さらに昔と比べ木材自体のニーズが減っています。樋口さんはこのウッディーラー豊田を立ち上げ以降、地元の人たちに豊田で育った木のストーリーを大切にして地域材のP Rをされてきました。最近は、それがだんだんと認知され始めてきたと思います。

樋口さん 木という商材って本当に難しいんです。深谷さんが言われた通り、豊田の木にブランドがあるわけではないので、ホームセンターなどの小売店や工務店などに営業に行ったとしても価格競争に巻き込まれてしまいます。過去にある建築物を建てる時に、「“特別な形をした板”が欲しい」というリフォーム会社さんがいました。担当の方は、自社で取引をしている材木屋さんに聞いてもそのような板が全くなくて困っていたようです。そんな中、ネットの検索でウッディーラー豊田に辿り着いて、私に相談が来ました。そこで、お客様と一緒に実際に木の生えている山まで行き、木材を使用する商品のイメージを聞きながら一番合っている木を提案しました。このように営業することで、板の価値が変わり、価格競争に巻き込まれずに、私たちが値段を決められるようになりました。そうやってじわじわと時間をかけながら進めてきました。

地域の木材で作った御朱印帳。
地元のデザイナーにデザインを持ちかけて商品開発を行ったのこと。このように、ただ木材を作って売るのではなく、付加価値(デザインやアイデア)を付けて、他の木材屋さんが売らないところ(神社やお寺)に販売を行っている。

そのようにして、ブランドが無いものに付加価値を付けて行ったのですね。今では相談者やお客さんも増えてきたと思いますが、先ほどのお話のように認知されるまでは大変だったと思います。

樋口さん お陰様で私たちと協力していただける企業をサポーターと呼んでいるのですが、110者にまで増えました。今年は理事も増えて、新入社員も採用する状況です。関係者が増えていくことで、少しずつやれることが増えていっています。
立ち上げ時はやっぱり大変でした。私たちは資本金が無いので、お金が無いですし、人もいなかったんです。私たちの活動内容もなかなか知られなかったので、「樋口が役所と一緒になんかやってるな」ぐらいにしか思われてなかったと思います。

立ち上げ当初の大変な中、今の団体までにどうやって成長をさせてこられたのでしょうか?

樋口さん マーケティングです。マーケティングをめちゃくちゃ勉強しました。特に私が使ったのはランチェスターの戦略です。簡単に説明をすると、大きな市場に対しても、1対1の接近戦をしながら徐々に広げていくイメージです。マーケティングなのでお金をかけて大きく展開する方法もありますが、私たちは、足で稼ぎ、汗をかきながら、小さいイベントやワークショップを開催するなど、身の丈にあった施策を試行錯誤して、繰り返し繰り返し進めてきました。それが少しずつ、豊田市内という局所的なところからですが、地域の木材のP Rにつながってきていると思います。これは、「割安の輸入材ではなくて、地域の木材を使って家を建てたい」とうい人が出てきたり、SDGsやCO2削減の追い風もあったりして、「高くても地域の木材を使って建物を建てたい」という企業が増えていくことになると思います。

豊田の2つの木材ブランド (コンセプトブックより抜粋 )
豊田市産の木材使って職人の手で作った商品には、CRAFT WOOD born in Toyota(画像上)、
豊田市周辺の木材を使った施設や建築物などには、MAKER WOOD made in Toyota(画像下)
豊田の地域木材の使用を見える化するだけでなく、ロゴ自体もオシャレなデザインのため、ロゴのついた商品や建築物の価値を向上させている。
コンセプトブックはホームページからも見ることができる https://woodealer.jp/

後編に続く