シティプロモーションの事例紹介
シティプロモーションの実施と効果測定
埼玉県春日部市 シティセールス広報課
皆さんは「シティプロモーション」と聞いてどのような活動を想像するでしょうか。
- 情報誌で市の魅力をアピールする。
- 観光名所を紹介して観光客を集める。
様々な活動が思い浮かぶと思いますが、その効果、成果を測定している自治体は比較的少ないです。
関東圏を対象としたシティプロモーション実勢調査(「関東圏5都県自治体シティプロモーション実態調査 結果」 2019年実施)では効果測定を行っている自治体は有効回答数56自治体の中で14自治体にとどまっています。
そんな中、シティプロモーションの効果測定を実施している埼玉県春日部市のシティセールス広報課の職員お二人に、効果測定を実施することのメリットやデメリットを伺いました。
「クレヨンしんちゃんのなるほど春日部マガジン」の市場調査と効果測定
春日部市では「クレヨンしんちゃんのなるほど春日部マガジン」(以下「春日部マガジン」)を使ったシティプロモーションが話題ですね。
萩原:平成31年の4月にクレヨンしんちゃんの映画のタイミングで発行しました。お陰様で市内外の方達に喜んでいただいております。今年は第二弾としてスタンプラリーのイベントの開催も考えていたのですが、新型コロナウイルスの影響を考えてイベントは中止となりましたが、冊子は昨年と同様に好評です。
(写真:春日部マガジンの第1弾。描き下ろしの漫画もあり、自治体の冊子とは思えない楽しい作りになっている。読みたい方は春日部市のシティセールス広報課のページで無料公開中。)
この春日部マガジンを含めた春日部市のシティセールスはどんな戦略で行われているのでしょうか?
萩原:春日部市では定住人口の増加を最終目標に掲げた第2次春日部市シティセールス戦略プランというものを作成し、複数年にわたってシティセールスを実施しています。
春日部市に現状無関心な人(ターゲット)が、どのようなプロセスで関心を持ち、移住・定住するかを考え、我々が何をすればよいのかをまとめて施策の方針を考えました。このようにまとめたものをカスタマージャーニーマップ※1といいます。
※1 カスタマージャーニーマップとは、企業におけるマーケティング手法の1つで、顧客(カスタマー)が購買に至るまでの流れを旅(ジャーニー)に例えて図にしたもの。
顧客がどのように商品やブランドと接点を持って認知し、関心を持ち、購入意欲を喚起されて販売や登録などに至るのかという道筋を旅に例え、顧客の行動や心理を時系列的に図式化している。
春日部市ではプロモーションの効果測定を行っていますが、なぜ効果測定を行う必要があると考えたのでしょうか
萩原:シティセールス戦略プランでは個別の施策について定量的な数値目標があるわけではなく、「何を目標に行動するか」「何をもって施策の成否を判断するか」を決める必要があると考えました。例えば現時点で実施した施策でいうと未認知層に対して認知度を高める施策を実施したので、認知度を定量的な目標として考えました。また、市が行う全ての施策・事業は、その効果や成果について市民への説明責任があると考えています。
保坂:効果測定の方法についてですが、市内向けのプロモーションであれば、春日部市が定期的に実施している市民意識調査を利用することで市への愛着や市への意見を一定程度把握することができます。
しかし市外向けのプロモーションの効果を把握するためには、別の効果測定が必要だと考えました。そこで比較的安価で市外の人の意見を収集できるインターネット調査を実施することにしました。
認知度の他に調査したことはありますか
萩原:これから実施する施策に対する測定の他に、過去の方針や施策を評価することもあります。例えばシティセールス戦略プラン立案時に設定したターゲットの住む「地域」の選定について、その妥当性が広報課の内部でも疑問視する声がありました。
春日部市から大手町への通勤距離が同程度の地域として「神奈川県海老名市」をターゲットエリアの1つとして想定していました。一定の妥当性はあるものの、それだけで多額の費用をかけて施策を行うべきか不安があったので認知度の調査に加えて「移住先に求めているもの」「今の家に住み続けたいか」「いま賃貸マンションに住んでいるか(賃貸に住んでいる人がターゲット)」という項目を調査しました。
結果として「神奈川県海老名市」については「地元に住み続けたいと考える人の割合が多い」「一戸建てに住んでいる人の割合が多い」といった特徴があり、狙っているターゲット層が少ない状態でした。調査を通じて客観的に「優先度を下げてもよい」という判断ができました。
シティプロモーションの効果測定の難しさ
効果測定をやって具体的に良かったことはありますか
萩原:市の内部での報告がしやすいです。例えば「春日部マガジン」を保育園で配布する施策を実施したのですが、その後のインターネット調査で情報誌の入手経路として「保育園でもらった」という回答があったので、わかりやすく効果があったと言えました。
効果測定があまりうまくいかなかったことはありますか
保坂:情報誌への誘導として、ターゲット地域の駅でデジタルサイネージでPRしたりYoutubeで動画を公開してPRを行ったりした※2のですが、認知度向上の効果を測定することをメインに考えていたので、どの広告手段がどの程度効果があったのかは判断できませんでした。
広告予算にも限りがあるので費用対効果を測定できれば、さらに良かったと思います。
※2 メディアミックス(複数の広告メディア)を利用して成果を出す手法で、目に触れやすいメディアと情報を深く知れるメディアを組み合わせるような使い方があります。
情報誌は手に取ってじっくり読む媒体のため、春日部市の特徴を深く訴求できる一方、大量に発行することは難しいため、デジタルサイネージやインターネット動画など、広く浅く顧客にリーチできるメディアと組み合わせる狙いがあったと考えられます。
春日部市のシティプロモーションの今後の展開とは?
今後どのようにシティプロモーションを展開していく予定ですか
萩原:まず現状としては、認知度の向上を狙った施策は実施したところですが、認知度調査の結果から、春日部市は知名度は高いがまちの特徴まで知らないという人が多いということがわかっています。そのため今後はそれに加え、本市の具体的な特徴を知ってもらい興味関心を持っていただく、更に、移住を検討している人には、本市を候補の1つとして頂けるような施策を実施していくことになります。
今年度(2020年度)は春日部マガジンを見た人に実際に本市の魅力や特徴を体感し、興味関心を持っていただく施策として、春日部市内を巡るスタンプラリーを実施する計画でしたが、感染症の拡大を抑制するため体感型のイベントは見送りました。来年度は見送ったスタンプラリーを実施したうえで、訪れた人へのヒアリングなどを通じてカスタマージャーニーマップの「比較・検討」に相当する施策を具体化して実施する予定(2020年10月時点)です。
例えば、実際に移住を検討している人向けに「メールフォームで移住相談を受け付ける窓口を開設する」「春日部市の生活空間を体験するツアーを開催する」などが実施できればと考えております。
保坂:最近は市外向けのプロモーションを中心に実施してきましたが、市外向けのプロモーションだけではなく、1次プランから実施していた市民向けの取組や庁内の職員向けの意識醸成の取組は、今後も実施していく必要があると考えています。
定住人口の増加を最終目標にしているようですが、日本国内の総人口が減っている中で難しいと思います。春日部市で何か工夫していることはありますか。
萩原:人口減少や少子高齢化といった日本社会全体の問題は、1自治体の努力で改善できるものではありません。自分たちの活動で改善できないことを数値目標とするのは活動内容を検討する上でも適していないので、別の評価基準を定めようかと検討中です。
具体的には関係人口※3を基準にしようと考えています。
※3 関係人口とは特定の地域(春日部市など)と多様にかかわる人々のこと。定住(住んでいる) 人口、交流(観光や仕事で訪れている) 人口、情報(見聞きしたことがある) 人口とは別の関わり方を数値評価することが可能。
保坂:定住・移住人口の数を増やすことだけを考えて、どんな人でもいいから集めるという考えは違うのかなと思います。春日部市に魅力を感じて移住してくる人を増やすことはもちろん目標ですが、それだけにとらわれず、今住んでいる人のまちへの愛着を高めることや「自分もまちのコトに関わってみようかな」と考えるきっかけを作っていくことなども重要だと考えています。
関係人口は考え方が広い概念ですが、具体的にどのように活用する予定ですか
萩原:関係人口のとらえ方については広報課の内部でも色々な考え方があります。例えば過疎化が深刻な自治体であれば、「地域外に住んでいて地域の産業を応援してくれる」ような関係人口を増やすのが第一目標かもしれませんが、春日部市は過疎化が最大の問題点ではありません。
まずは「春日部市が積極的に増やしたい関係人口は具体的に何か」を定義するのが先決だと考えています。
保坂:現状で春日部市が抱えている問題点は何かをふまえて「どういう人」が増えたらいいのかを考えていく予定です。
対談を終えて
今回は埼玉県春日部市のシティセールス広報課のお二人にお話をお伺いしました。
シティプロモーションという正解のない活動に対して、行動指針を作り前向きに施策を実施している印象を受けました。施策に関しても計画通りにやるだけではなく、現状を分析することで「うまくいった点」「うまくいかなかった点」を捉えて次年度の活動に反映しているので、活動が論理的かつ合理的に実施されているように感じます。
次回は引き続き春日部市のシティセールス広報課のお二人に、シティプロモーションを実施する組織体制面の課題を伺いたいと思います。