シティプロモーションの事例紹介

シティプロモーションの現在と今後について

関東学院大学 牧瀬稔准教授

関東学院大学 牧瀬稔准教授

今回は多くの自治体で政策形成アドバイザーや「シティプロモーションとシビックプライド事業の実践」等のシティプロモーションに関する書籍も多く書かれている関東学院大学の牧瀬稔准教授にシティプロモーションの現在や今後、効果測定についてお話を伺いました。

牧瀬先生は大学や自治体などいろんなところでご活躍のようですが、現在の活動についてお教えください。

牧瀬:関東学院大学と社会情報大学院大学の2つの大学の教員としての活動が多くなっています。もちろん自分でも講義を行いますが、活躍している自治体の職員の方や市長や副市長などの自治体の長の方にも講義をしていただいております。講義だけでなく、私のゼミナール※1に所属している学生は、実際に自治体に訪問させていただき、学生から政策提言を行うこともしています。

※1. 学生自らが講義や活動内容をインスタグラムにも投稿している。
https://www.instagram.com/makise.seminal_official/?hl=ja

関東学院大学での牧瀬ゼミナールの風景

政策提言をする機会などなかなかないので、学生にとって貴重な経験ですね。実際に採用された事例はあるのでしょうか?

牧瀬:岩手県北上市や茨城県ひたちなか市、島根県美郷町などで学生による政策提言を行っています。ひたちなか市では学生の提案内容が非常に好評で採用されました。おっしゃる通り学生にとっても良い機会になっていますが、自治体の方にとっても良い機会になっているようです。普段意見を聞けない外部の人たち、特に柔軟な発想を持つ学生から意見をもらえるので、満足していただいています。

シティプロモーションの傾向が対外的から対内的に変化

大学の活動だけでなく複数の自治体でアドバイザーや講演などをされているので、多くの自治体と接する機会もあると思いますが、シティプロモーションでいうと何か自治体共通の傾向のようなものはありますか?

牧瀬:市外に向けた移住定住を促す対外的なプロモーションから、市内向けの対内的なプロモーションに移っているように感じます。いわゆるシビックプライド※2への取り組みですね。現在の人口減少社会において多くの自治体が拡大都市※3を目指すと自治体間競争を招きますので、拡大都市から縮小都市※4への価値観の転換が起こっているのだと思います。実際に埼玉県の戸田市では2010年度に策定した「戸田市シティセールス戦略」では対外的なシティプロモーションを主にしていますが、2016年度に策定した「戸田市シティセールス戦略改訂版」では引き続き定住人口の獲得は進めていくものの「インナープロモーションの更なる強化」を強く掲げています。この「インナープロモーション」とは、「自治体内部の職員に対するシティセールスの浸透だけでなく、市民や事業者などの市内関係者にまちの魅力を訴え、結果として市民の誇り、愛着心の向上につなげていく活動」と定義しています。

※2. シビックプライドは株式会社読売広告社の商標登録である。
※3. 拡大都市:「人口減少時代においても、積極的に良い行政サービスを提供することで、今までどおりに人口の拡大を目指す」ことや「周りが人口を減少させる中で、人口の維持を達成しようとする自治体」
※4. 縮小都市:「人口減少の事実を受け入れ、人口が減少しても元気な自治体をつくっていく取組」
※2~4は牧瀬氏が執筆した書籍「シティプロモーションとシビックプライド事業の実践」で詳しく記述されている。

さすが戸田市ですね。2016年の段階で戦略策定をしているということは、2014年か2015年には問題を認識して変えたのですね。とても早い気づきですし、それを実行に変えたのもすごいですね。

牧瀬:当時シティプロモーションの所属長をしていた方が、だいぶ民間的な感覚を持っている方でしたので、とても早く実行されていました。戸田市は対外的なシティプロモーションは「競争」を基本とし、インナープロモーションは「共感」を基本としています。株式会社読売広告社が実施した「都市生活者の居住エリアによる特性分析を可能にするCANVASS―ACR調査」(2016年10月26日発表)では、戸田市は「共感」の評価において2位の武蔵野市と3位の横浜市をおさえて1位となり、インナープロモーションも効果が出始めています。

厳密なターゲット設定をしている自治体が結果を出している

こちらのポータルサイト(シティケン)では、シティプロモーションの効果測定や市場調査について今後情報発信をしたいと考えております。これらについてどのようにお考えですか?

牧瀬:効果測定はシティプロモーションだけでなく、政策を行う上でとても重要なことだと思います。行政評価を行って、効果測定を内部評価という形で行っているところは多いです。一方で市場調査は行っているところは少ないと思います。

やはり市場調査を行うところは少ないのですね。民間企業であれば当たり前だと思うのですが。

牧瀬:そこが自治体の残念なところですね。民間企業は事業がまわらなければ倒産リスクがあるので、マーケティングやプロモーションを行う際には、リスクを回避するために市場調査を当たり前のようにやるのでしょうが、自治体の場合はその辺の意識がどうしても甘くなってしまうのかもしれませんね。

シティプロモーションがうまくいっている自治体の傾向や特徴のようなものはありますか?

牧瀬:厳密なターゲットを設定してプロモーションを行っている自治体はうまくいっている印象があります。「子育て世代」というような大きくターゲット設定をしている自治体は多いですが、うまくいっている自治体は「0~3歳児を抱える世帯」とか「小学校低学年の家庭」というように限定しています。未就学児を育児している家庭と高校生を育児している家庭では、同じ子育て世代でも、特徴は大きく違いますからね。

ターゲット設定というと対外的なシティプロモーションのイメージですが、対内的なインナープロモーションでもターゲット設定をした方がよいのでしょうか。

牧瀬:もちろんした方が良いです。高齢者が持つシビックプライドと、若年者が持つシビックプライドでは違います。ターゲット設定は対外的、対内的に関係なく重要ですが、実際に実行するのはなかなか難しいようです。自治体職員は公平性という考えの中でずっと仕事をしてきたので、「この範囲の人だけにメッセージを伝える」ということがどうしても苦手ですね。

シティプロモーションと関係人口

最近では「関係人口」という考えをシティプロモーションに取り組む自治体が増えています。私自身、なかなか概念が捉えきれていないのが正直なところなのですが、どのようにお考えですか?

牧瀬:関係人口は全ての自治体が同じに考えてはいけないと思います。関係人口をどのように捉えるかは、自治体によって様々になると思います。青森県のむつ市は人口増加ではなく、税収の増加を狙っているので、ふるさと納税を頑張っています。一方で、愛媛県西条市も関係人口に取り組んでいますが、地元出身のタレントさんと東京でイベントを行っています。その自治体によって取り組み内容が変わっていて良いと思います。関係人口で気をつけないといけないことは「悪い関係人口」がいるということです。具体的には観光に来てゴミを捨てたり、交通渋滞を引き起こす人たちです。これも定義と合わせれば関係人口になってしまいます。私は良い関係人口と悪い関係人口の差は、シビックプライドがあるかないかだと考えます。「その地域が好き」という気持ちがあれば、良い関係人口になるはずです。その面からもシビックプライドは重要だなと思います。シビックプライドを市内の人たちだけを対象にしていると勘違いしている人も多いですが、読売広告社の定義によれば、市外の人たちも対象となります。

シビックプライドは関係人口の面からも重要なのですね。最後に、この先シティプロモーションはどのようになっていくとお考えですか?

牧瀬:昨年ぐらいからシティプロモーションは一時の勢いがなくなって、少しトーンダウンしているように感じます。実際に、従来開催されていたシティプロモーション関連のイベントにも実際にシティプロモーション関連のイベントも 昨年開催されていないものもありました。一方で、ほとんどの自治体でシティプロモーションは標準装備になっていくと思います。まだまだ行っていない自治体もありますが、あって当たり前になっていくと思います。

牧瀬稔さん

専門は自治体政策学、地域政策、行政学。市町村のまちづくりや政策形成に広くかかわっている。
法政大学大学院博士課程人間社会研究科修了。民間シンクタンク、横須賀市都市政策研究所(横須賀市役所)、(公財)日本都市センター研究室、(一財)地域開発研究所を経て、関東学院大学法学部地域創生学科准教授。社会情報大学院大学特任教授、東京大学高齢社会研究機構客員研究員を兼ねる。