シティプロモーションの事例紹介

奈良県黒滝村の伝統工芸品の技能継承と地域連携の取り組み(前編)

黒滝村 林業建設課

黒滝村 林業建設課

黒滝村は奈良県のほぼ中央にあるため「奈良県のへそ」といわれており、吉野杉で有名な林業の村
(画像は、黒滝村ホームページ(https://www.vill.kurotaki.nara.jp/)より引用)

今回の事例紹介は奈良県黒滝村です。黒滝村は奈良県のへそと呼ばれ、林業で栄えてきた村です。村の約97%が林野であり、森林の村として地域のブランド化に取り組まれています。その活動のひとつとして、村の伝統工芸品の技能承継に取り組まれている林業建設課(現:保健福祉課 課長補佐)の北村さん、酒井さんにお話を伺ってきました。

黒滝村 林業建設課 課長補佐(現:保健福祉課 課長補佐) 北村さん(右)
黒滝村 林業建設課 地域おこし協力隊/スギイロ 酒井さん(左)

どのような経緯で伝統工芸品の技能承継に力をいれたのですか?

(北村さん)今から8年前になりますが、私が林業建設課の担当になった当初、他の地域と同様に村の林業も衰退しつつありました。しかし、それ以上に木工産業が危機的な状況であることに気がついたのです。当時、村の木工職人の高齢化が進み、跡取りがいないために廃業する人が出始めていました。このままでは”村の伝統工芸品が全てなくなる!”との危機感を持ち、担い手不足に対して何かできないか考えました。林業については地域おこし協力隊の制度を活用していましたが、木工産業には何も支援していない状況だったのです。

ちょうどそのころ、村の工芸品の一つ「吉野杉透かし彫り」の職人のもとに近隣の町の若手職人が弟子入りし、技能継承を始めていました。そこへ新たに木工の人材を村として募集し、加わってもらうことで、“工芸品製作の担い手を育成し、活性化に貢献できるのでは?”と考えたのがこの事業の始まりです。ただ、村にある木工用の機械が老朽化したので、この事業を進めるためには設備の更新が必要でした。

そこで山村活性化支援交付金を活用されたのですね。

(北村さん)はい、透かし彫りを村の産業として維持するためには機械がなくてはできません。当初は交付金を設備導入のみに活用することを考えていましたが、県からはその機械をどのように活用するのかをきちんと示すことが必要だと言われました。そこで、伝統工芸品の技能承継、人材育成を含めた村の工芸品産業の活性化を目標に掲げ、3年間活動していくことを決めました。

黒滝村の伝統工芸品「吉野杉透かし彫り」(写真上)と「水組木工」(写真下)。
・「透かし彫り」は吉野杉の美しい木目の性質を生かし、手作業でつくられる美術工芸品。
・「水組木工」は木材同士をつなぎ合わせる技法の中でも非常に難度の高い組み方で、
組んだ部分が「水」の字に見えることからこう呼ばれている。
(写真は、木工製作・企画ワークショップスギイロ
(https://www.vill.kurotaki.nara.jp/sugiiro.html)から引用)

3年間かけてどのような活動を行ったのですか?

(北村さん)1年目に行ったのは、工芸職人をはじめとした村の産業に携わる方々への聞き取りや、産業の掘り起こしです。透かし彫り職人や水組木工職人など、一人ひとりにインタビューして村の職人を紹介する一つの冊子を作りました。この活動を通じて、跡取りがいなくて既に失われた技術がいくつかあることが分かったので、“まずは透かし彫りと水組木工の技術を残しつつ、主産業の林業とともに木材産業の活性化に取り組もう”と決めました。

2年目は「技能継承」と「商品開発」の取り組みです。新たに木工職人に応募してくれた若手人材の育成や商品開発を行い、展示会への出展やリモート商談会などでPRしました。これらの活動を通じて徐々に話題性が生まれ、新聞に取り上げていただけたことがとても良かったです。販路開拓も試みましたが、コロナ禍でバイヤーさんに会える機会が少なく、なかなかうまく進みませんでした。

そして3年目には目標達成のため、販売を促進するべく販路開拓に力を入れました。林業・木工支援のため新たに加わった地域おこし協力隊員、酒井さんが作った「スギイロ」というグループを核に、アンテナショップや道の駅などへの販路拡大に取り組みました。

「スギイロ」はどのような組織で、どんな役割を担っているのでしょうか?

(北村さん)スギイロは酒井さんと木工職人で活動してきました。酒井さんは主に全体の統括、営業や広報を、村が募集した3人の職人は黒滝村森林組合に所属しながら木材の加工や商品開発をする担当です。具体的には、吉野杉透かし彫り、水組木工を中心とした商品開発、ホームページでのブランディングです。ホームページを見た人からの注文も次第に増えています。また、奈良県大和高田市の出産記念品としてフォトフレームを受注するなど、仕事の幅も広がってきました。

木工品製作・企画ワークショップ スギイロ ホームページ
https://www.vill.kurotaki.nara.jp/sugiiro.html
「スギイロ」のホームページでは、黒滝村の伝統工芸品である吉野杉透かし彫りや
水組木工の技術を使ったオリジナル製品の紹介、販売を行っている。
(写真は、木工製作・企画ワークショップスギイロ
(https://www.vill.kurotaki.nara.jp/sugiiro.html)から引用)

酒井さんはどのような経緯で黒滝村に来られたのですか?

(酒井さん)私はもともとオフィスワーカーで、ものづくりの経験はまったくありませんでした。“ものづくりをやってみたい”と思い、職業訓練校に1年間通いましたが、あまりにも畑違いでものづくりの難しさを実感しました。

在学中に北村さんが黒滝村地域おこし協力隊募集のため職業訓練校に来られたときに、初めて黒滝村のことを知ったのです。その後、訓練校生の有志で黒滝村へ見学に行く機会があり、実際に村の職人さんと交流して黒滝村への興味が深まりました。そして、ご縁もあり地域おこし協力隊として黒滝村で働くことになりました。

黒滝村に来てみていかがでしたか?

(酒井さん)黒滝村のある吉野地域は杉やヒノキで有名な地域なので、木工で使う材はすぐに手に入ると考えていました。まさか板1枚を手に入れることがこんなに難しいとは思いもしませんでした。杉、ヒノキが育つ山に囲まれていても、木を山から運び出してそれを板に引いてもらうまでには多くの時間と人手が必要です。その大変さを最初の1年で痛感しました。

今はどんな仕事をされているのですか?

(酒井さん)この2年間で、ものづくりを入り口に村を元気にする手伝いができるかもしれないと思うようになりました。去年から不定期で「スギイロ市」というイベントを始めました。他の地域おこし協力隊メンバーと力を合わせ、木工以外にも村のさまざまな事業者に参加してもらい、ゆるやかな交流の場を作ろうとしています。人口は減る一方で、コロナ禍の影響で村の行事も軒並みなくなり、なんとなく元気がなくなっていた村に少しでも活気が生まれたらと思ってのことです。

前回からは村の子供の有志が手作りのレモネードを販売し、収益をユニセフに寄付するなど、地域の子供たちが一緒に活動する新しい動きも生まれてきました。これも少人数の小中一貫校でずっと一緒に学べる村の良さかなと思います。他にも昔からの暮らしの知恵や技術、そして村の人々そのものなど、村外から見れば宝物と思える物事が村にはたくさんあります。「こんないいものがありますよ」と口で言うだけですが、村の人たちが“あ、そうか”となれば、村が少しずつ変わっていくのではないかと思っています。

スギイロ市をきっかけに村を元気にしていくのは、とても良い試みですね。

(北村さん)スギイロ市は、スギイロを村の人々に知ってもらうための交流活動として開催しています。昨年は3、6、11月の計3回開催しました。会場に村の飲食店の屋台を並べ、お菓子やコーヒーと一緒に木工品や陶器を販売したり、生木を使う木工グリーンウッドワークのワークショップを開催したり、村の人々と協力して地域を盛り上げようとしています。若者が活動していると、閉じこもりがちな住民も気になって顔を出してくれるなど、村の活性化につながる良い活動の場になっています。

昨年(2022年)11月に開催したスギイロ市の風景
(写真は、スギイロ Facebook (https://www.facebook.com/sugiiro/)から引用)

村のイベントで行っているグリーンウッドワークについて教えて頂けますか?

(北村さん)酒井さんが地域おこし協力隊として黒滝村に来て2年間活動するうちに、森林組合が間伐した木が山に残されていることに気がつきました。村には林業従事者が多いので、木と人材を活用して何かできないか考えたのがこのワークショップのきっかけです。

(酒井さん)グリーンウッド(GREEN WOOD)とは英語で「生木」を意味し、伐採したばかりで 乾燥させていない木のことです。 生木を伝統的な手道具を使って割ったり削ったりしながら小物や家具を作ることをグリーンウッドワークと呼びます。生木は軟らかいので電動の機械を使わなくてもサクサク削れ、電動工具どころか金属もなかった昔から行われていました。イギリスやアメリカでは今でも趣味として人気があります。日本では20年ほど前から岐阜を中心に見直され、最近では都市部でも関心が高まっています。

さきほど材が手に入らないと言いましたが、その一方で、杉の「たんころ」*や市街地などで大きくなり過ぎて伐採された木は、バイオ燃料にするかごみとして処分されています。それをグリーンウッドワークの材料として活用すれば、村の資源になると考えました。

また、都市部ではグリーンウッドワークの面白さに目覚め道具をそろえた、ところが肝心の生木が手に入らない、と困っている人たちがいます。そういう人たちに、材料とグリーンウッドワークを行う場所を提供できれば、“林業の村”として村にある資源全体を売り物にできます。

*たんころ:曲がりや凸凹があって切り捨てられた商品価値の低い木片のこと

グリーンウッドワークの活動が村の新たな観光資源になると良いですね。

(酒井さん)グリーンウッドワークをするために、都会から人が来るようになれば良いなと考えています。山や森へ案内して実際に木を見てもらい、細い木を実際に自分たちで倒して、それで木工品が作れれば面白いですよね。森林インストラクターの資格を持つ作業員も複数いるので、彼らをガイドにしたツアーを考案し、グリーンウッドワークと組み合わせてみたいです。一泊二日で来てもらえれば、村に消費をもたらし、森林作業員の生活向上にも役立ちます。さらにSDG‘s達成に向けた取り組みとしても意義が深いでしょう。また日本、特に吉野の山は欧米のものとは雰囲気が違うので、海外からも人を呼べたらと思います。

村で行われたグリーンウッドワークのワークショップの風景。
(写真は、スギイロ Facebook (https://www.facebook.com/sugiiro/)から引用)